25 years of the fighting men’s chronicle 劇場版 エレファントカシマシ ディレクターズカット
インタビュー
横山健(Ken Band/Hi-STANDARD)
マキタスポーツ
新井英樹
大根仁
綾部和夫(エレファントカシマシ初代マネージャー/双啓舎代表)
TOSHI-LOW(BRAHMAN)
草野マサムネ(Spitz)
山田将司、菅波栄純(THE BACK BORN)
岩尾知明(FM802)
今回の映画のスタジオシーンは強烈でした。
前作のドキュメンタリー『扉の向こう』でもメンバーとのやり取りは出てきて、
「すっとこどっこい」などと宮本さんが怒号を飛ばすシーンは見てるから、
ある程度、そういうのに免疫はできてるつもりではいたけれども、
今回の4人だけのスタジオのくだりは、量もたっぷりあり、もうすごすぎてビビりました。
自分も叱られているみたいに、こっちまで縮みあがってしまいました。
宮本さんの叱咤、罵倒の引き出しの豊富さ、あれは一体ほんとに……ちびるほど怖かったけど、でもシーンを追うごとに、あまりにそのボキャブラリーがツボで、感心すらしてしまいました。
納豆売り、ウサギのフン、レベルの低い友情……
もちろん、愛情の共存した厳しさなんだろうし、発破をかけるとか、宮本式気合い注入の術、
ということなんでしょうけど……
ずばずば言う合間に、チラッと笑ったりして、いやもう怖いのなんのって……しばらく病気療養していた人なんだろうか? と見紛うほどの炸裂ぶり。そういう意味では安心したというのもあるかもしれないけど、スタジオシーン、ほんとに半端なかったです。
映画の中で一番鮮烈だったのが、スタジオで新曲のリハをやるんだけれども、うまくいかなくて、耳がこれ以上悪くなるといけないから今日はもうやめる、などという感じの、この映画の中でも最高レベルの罵倒の言葉を吐いて、宮本さんが一人スタジオを出て、隣の部屋で椅子に座ってじーっと考え込むところ。
ここで、30年もやってればもっとうまくなってればよかったんだけど、みたいに宮本さんがついこぼしてしまいます。
あの表情は、うまく言えませんけど、悔しげな悲しげな……カメラはしばらくその表情をとらえていて。
でもそこにとどまらず、石くんがギター弾けばいいんだ、と思いついた宮本さんが、
勢いよくスタジオに戻って行くくだりは、追う映像の揺れもあってか、臨場感があって、映画の中でとてもドラマチックな場面でした。
バンドでやるということ。
己に正直にイメージそのままに表現をするということ。
それらをまとめあげ、理想の音として形になる瞬間を呼び寄せようと、宮本さんは怒り狂い煩悶を繰り返す。
メンバーはその思いを重々わかってはいても、
4人でそのイメージを完全に共有するのはむずかしいし、
共有できたとして、実際、完璧な音を鳴らすのは生易しいことではないのかもしれない。
そして、バンマスは技術のこと、音色のことも言えば、それ以外のことも求める。
「音以上の何か」を求めてメンバーに檄を飛ばす。
宮本さんが、去年の野音が終わってから、メンバーとは全然会わず、連絡もとらなかった。石くんとは時々会ってたけど。みんな何やってたんだろう。渋い。なんてことを言っていたように思います。
「渋い」。
4人の関係は絶妙なバランスで成り立ってるなあ、そのバランスを支えているものは一体なんだろうとと常々思ってきたけど、
映画を観終わって、なんとなくそれがわかったような、わかんないような、どっちだろう、うーん、その絶妙さの理由は、やっぱり謎のままかもしれません。
でもきっと、そのギリギリのバランスがエレカシなのであって、安定することを、意図的に避けているのかもしれない、という気もします。
厳しいリハのシーンは、見ているこっちもキツかったんだけど、
タバコを管理する石くんと管理される先生のエピソードが時々入っていたのは絶妙だったし、
トミが煮詰まって、スティックを鬼の角のようにしてうなだれているのを見て宮本さんが
「難しい? 自分のペースでやってみれば」みたいな感じで声をかけたり、
ある日のリハの終盤で、宮本さんが「かっこいいの片鱗が見えてきた」とうれしそうな表情を見せたり、
こっちまでうれしいというか、
そういうシーンがちょっと入るだけで、本当にほっとするというか。
張りつめたシーンの連続の合間に、短く入るから、余計際立つし、
暴君の暴君じゃない側面も確認できて安心するという(笑)
それと日比谷野音へメンバー4人が行くシーン。
4人が日比谷野音の入り口から、客席後方に向かう後ろ姿の映像が、ほんとによくて、
真ん中に先生、左右に成ちゃんと石くん、2、3歩遅れてトミがそれについて歩くという、
自然にああいうフォーメーションができているのかと思って(たまたまかもしれないけど)、
いい光景だなと思いました。
スタジオでの緊迫したシーンもエレカシ、
そしてまたああやって4人並んでほっこりしているのもエレカシなんですね。
横山健氏が、エレカシが長く続いていることについて、
「奇跡か、諦めか」と言っていました。
不思議とこの「諦めか」という言葉、マイナスな印象がないんです。
映画を通じて見えた4人は、仲良し4人組ということだけではもちろんなかったし、
25年間、
そのつながりの裏には意思の疎通があり不通があり、勇気があり逃げがあり、夢があり諦めがあり、大いなるジレンマがあり、
それでもなお、1ミリでも上へと高みに向かって進んで行こうとするのが見えるから、
きれいごとだけではない生々しい4人の人間、人間関係のありようが、
ただただ美しく、崇高で、
だからそのバンドのたたずまいに心打たれるんだろうなあ、という気はしました。
横山健氏が「いつまでも悩み続けて……それを見せてほしい」と言っていて、その表情がまたよくて、とても心に残りました。
25 years of the fighting men’s chronicle 劇場版 エレファントカシマシ ディレクターズカット