当然なんだけど、いつものライブ前とは違う空気で満ちていました。
歌を聴きたいが体も心配、揺れる思いを行ったりきたり、
会場はあらゆる「気」で充満して、その気を放っている大勢の中の一人でもある私は、本当にむせ返りそうでした。
それでも着々と時は近づいて、いよいよ開演。宮本さんがステージに一人で現れました。
2、3曲を弾き語りして終わりだろうとてっきり思ってて、MCも、やったとしても、すごく短いんだろうなと。
歌で全てを伝えます、みたいな感じなのかなと思っていました。
ふたを開けてみれば、やった曲は全12曲。それに先生、しゃべるしゃべる。
ある時期、こんな感じだったこともあるけど、こんなに饒舌な宮本さんは久しぶりだった。話、長い?客席に確認したりもし。
MASTERPIECEツアーが「エレファントカシマシです」の紹介もなかったくらいMCのないライブだったので、そのギャップにすごくびっくりした。
数ヶ月ぶりに会った友達に、気軽に話しかけてるみたいだった。その内容が自分の病状報告で、実際は本人にとって深刻だったであろう発症から入院、手術の経過を、身振り手振り交え、話してくれた。
ファンを心配させないようにという気遣いが痛いほど感じられた。だから本当は切ないところなんだけど、あの日は先生、話術が本当に冴えていて、時に笑いがどっと会場から沸き起こるような、そんな話しぶりだった。
いつも思うんですが、宮本さんは自分の身に起きた大変な話を、
すごく大変でした!とは語らない。大したことなかったよ、とはぐらかす。
はぐらかすというか、
ひたっちゃう、悲劇のヒーロー(?)みたいになるのを極力さけてるような気がします。
ひたっちゃった場合は、そのことを客観的に語って笑いに変えてしまうのです。
14日も宮本さんはそんなふうに話してました。
「病気に酔っちゃうんですよ」
やっぱりすごい人だなと思った。
「夢のちまた」で始まりました。野音の代名詞みたいな曲。
あのか細いギターのフレーズで、ああ野音だなあ、といつもぎゅっとココロをわしづかみにされてしまうのです。
「約束」は、「MASTERPIECE」が出たあと、ぐるぐる何度も聴いたのに、今回はまた違ったふうに聴こえました。
≪俺もいつか振り返る時を迎えて≫という詞があったりして、MCでも壁をじっと見つめて人生を振り返ったなんて言ってたので、今の宮本さんのリアルな心情が伝わってくるような気がしました。
やっぱり、このあたりぐらいまで、観ている側としてまだ緊張していた気がします。ステージ上もそうだったのかな。
だけど途中からいつの間にか、持ってかれました。あっちの世界に持ってかれた。
途中から、普段のライブを観てるみたいな感覚になり、
時々ふと我に返って、あ、これはいつもと違うやつなんだって思い出すんだけど、
すぐまたぐーっと引き込まれてしまった。
あの友達に話しかけるようなMCが、緊張しきっていた聴き手のココロをかなり和ませてくれたと思います。
そして宮本さんの歌は、「花男」「俺たちの明日」「笑顔の未来へ」……
曲を重ねるごとに少しずつパワーを増し、最後はバンドでやった「ズレてる方がいい」。
悲願の生ズレてる!
期待を裏切らない圧倒的なカッコよさで、目の前のこの人たちは、本当にライブ活動休止するのか? と見紛うほどでした。
「俺たちの明日」の演奏後、すぐ次の曲にいかないで、宮本さんはしばらくじっと立ち尽くしていました。
我に返って「言う台詞を考えてくればよかった」なんて言ってたけど、その佇まいで、
感極まってるんだなあと思って、こっちまでつられて涙腺がゆるんでしまいました。
発声がいつもと違うなと正直思った部分もありました。
だけど、そんなこと本人が一番わかってる。
妥協をもっとも嫌う男が、決意し、覚悟し、野音のステージに立った。ファンに直接想いを届けるために。
「歌わせてくれ」と、一旦中止になったステージに現れたのです。
完璧ではないけど、それでも全身全霊で「届け!」と念じながら歌う男の声、
それを、全身、頭のてっぺんからつま先まで感度全開にして受け止める聴衆、
その感動が歌う男にさざ波のように届いて、男の声はさらに力を得る。
そんな循環があったような気がしました。その輪っかが、あの日はなんとなく目に見えるような気がしました。