あれはまだ9月。
翌月の野音をただただ純粋に待ちこがれていた頃の話。
勝手に野音のセトリをあれこれ考えて、友達に見せたら、
紙面を一覧したあと、眉間にしわが寄っているのです。
なんだ?と思ったら、
「”東京ジェラシィ”がない」
と一言。
おお。”東京ジェラシィ”。この名曲を忘れていたとは。
“東京ジェラシィ”は、2001年3月発売のシングル『孤独な太陽』に収録されています。
古い 古い お城いっぱい 日本暮らし
男は 年でケッコウ 達観暮らし
(エレファントカシマシ「東京ジェラシィ」詞/宮本浩次)
この「古い古い」の歌い方が絶妙なのです。
古いの「る」は、「る」と「ら」の間。
サビの「ジェラシィ」の連発も聴きどころ。「シィ」は「ッスィ」。
気だるい、投げやり、やるせない。
ビリビリしたギターリフもたまりません。
いつだったか、この曲をライブで見たとき、
宮本さんの、ギターを弾くストロークする右手が真っ直ぐ下じゃなくて、
ちょっと外側に振り下ろしてて、あえて投げやりに弾いている様が曲に合ってもう見事で、
こんな投げやりでもこんなにかっこよく見えてしまうとはいやはや……と
息をのんだことがありました。
このシングルには”風に吹かれて”のライブVer.(2001/1/4 武道館)も入っています。
これがまたいい。演奏もいいし、声がばーんとよく出てる。
シングルなのでもうお店にはないかもしれませんが、
ブックオフとかにぽろっと置いてあるかもしれません。
“東京ジェラシィ”はアルバムにもベスト盤にも入っていないこともあり、
おすすめのシングルです。
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エレカシと関係ない話。
今日はお芝居、二兎社の「こんばんは、父さん」を観てきました。
http://nitosha.net/n37/index.html
お芝居はあんまり観ないほうですが、二兎社だけはわりと昔から観ていて、
今回のは、今までで一番よかったかもしれない。
登場人物は男三人だけ。佐々木蔵之介、溝端淳平、平幹二郎が扮します。
平幹二郎と佐々木蔵之介が親子の役。
幹二郎はかつて町工場で成功を収めたものの、
金が回らなくなり夜逃げして今では闇金業者の淳平に追われている。
ひょんなことから息子の蔵之介に再会するが、
その息子も務めていた一流企業を辞めて浮浪者のような生活をしている。
父と息子は、お互い相手の今の姿に失望し、
すれ違い続けてきた過去を振り返りながら、対話を繰り返す。
脚本、演出は永井愛さん。
永井さんの舞台はいつも笑いとシリアスがいい塩梅で、ラスト、いい余韻で終わるのが常なのですが、
例に違わず今日もすばらしかった。
永井さんの笑いのセンスは絶妙で大好きで、
本人たちは深刻な状況にあるのに、どこか投げやりで、ぼそっとつぶやく一言が妙に可笑しい。
ホンがそもそもいいんですけど、多分、役者たちの演技と演出で、
可笑しさが何倍にもなっているんだろうなと思った。
今日はコミカル部分がいつも以上に冴えていました。
シリアス部分は今日も深い感動がありました。
父と息子のやりとりの中から浮かび上がる、亡き妻(母)の姿。
広い豪邸でセレブに過ごすよりも、
町工場で職人たちと気ぜわしく働くことに幸せを感じていた、昭和の女性。
いつかTV「泉谷しげると翼なき野郎ども」にゲスト出演した宮本さんが、
「困った時には、泉谷さんの『春夏秋冬』を聴き、高度経済成長の“貧しいんだけど明るくて元気な日本の埃っぽい東京の風景”が、目の前に広がって、凄く温かい気持ちになって」
と、泉谷さんの「春夏秋冬」を歌う前に話していましたが、
今日の舞台で、父と子が回想したシーンは、まさに”貧しくも明るく元気な埃っぽい日本の風景”でした。
佐々木蔵之介は好きな俳優さんですが、声がいい。低くて。今日改めて思いました。
平幹二郎は、老いてなお元気というか、究極のダメ男をチャーミングに演じてました。
溝端淳平は、今までの「借金取り」のダークなイメージをくつがえす、
チャラいけどどこか爽やかな闇金業者というすごい設定の役を好演していました。
セリフが良かったです。永井さんのはいつもいいのですが、
今日のは特に良かった。
永井さんのセリフの良さというのは、なんていうんだろう、
さりげないというか、短くて、言い過ぎない。
言い過ぎないから、あとあとまで余韻を引くのです。
10月23日から始まったNHKのドラマ「シングルマザーズ」は、
脚本は違う人なので、多少タッチは違うかもしれませんが、
原案が永井愛さんです。
去年の二兎社の舞台「シングルマザーズ」が下敷きになっているようです。