昨日、12月に「THE BEST 2007-2012 俺たちの明日」発売の知らせを受けて、
ライブ活動休止中とはいえ、リリースがあるというのはやっぱりうれしいもので。
なんだか自分でも妙に盛り上ってしまっているので、この勢いで
ベスト盤に入る曲の1曲ずつレビューというのを
いまさらながらやってみようかなと思います。リリースまでに終わるかな…
「俺たちの明日」から始まり、最後が「ズレてる方がいい」という曲順のようですが、順不同でまいります。
今日は「彼女は買い物の帰り道」。
2010年11月に発売された「悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~」の6曲目。
麻生久美子さんがMVに出演したことでも話題になりました。
最初聴いて感じたのはメロディの美しさでした。
エレカシの曲は、言ってしまえば全部そうなんですけれど、これはほんと、まず曲にやられてしまいました。
繰り返し聴いていくうちに詞の世界にいったわけなのですが……
男の人が女の人を見てる、視線を向けて歌われた曲、ということで、
奥田民生の「恋のかけら」を思い出します。
木のかげで泣いている 美しい人の悲しい姿
彼女のつらいわけなど きっと僕にはわからないので
奥田民生「恋のかけら」
泣いている女の人を見ていた男が、ふと過去を振り返り思いをめぐらせ…という歌です。
この歌の、男女の距離感が好きで、いろいろとらえ方はあると思うけれど、
多分、面識はほとんどないんだろうなと思わせる感じ。
「彼女は買い物の帰り道」も、出てくる女の人に対する距離感がすごくいいんですよね。
裸眼ではない、8ミリカメラを介して見ている、ぐらいの感覚というか。
女の人の日常の、気だるさや淡い絶望を描写するのに、
これぐらいの引きの目線がぴたっとはまる気がします。
だから「あなた」でなく「彼女」なんだとも思う。
引いて見てるから、見守ってる感があるし、やさしい。
でもときどき「 」で彼女自身の心の声も歌われる。
「でも私は誰かを愛してる」
エレファントカシマシ ”彼女は買い物の帰り道” 詞/宮本浩次
の「誰か」というのがいいと思います。
「あなた」じゃないのがいい。
あなただと安定しすぎるというか、「誰か」の方が、自分に言い聞かせてる感じもにじみ出ていい。
この詞の世界を、あのくもりのない真っ直ぐな声で歌うんですから、もう撃沈されますって。
後半の詞と曲の展開がほんとにすばらしくて、
揺れる胸の奥の面影たちと
今を生きてく自分の姿重ねる
(同上)
「面影たち」と「たち」をつけるのが宮本流のやさしさですかね。
もうエンディングは彼女だけじゃなくて彼にも通じる普遍性を帯びています。
インタビューでこの曲について宮本さんは
この曲は、僕、好きな曲なんですよ、個人的に。
僕にとっては女の人の歌を≪私≫っていうふうにして歌うのを、すごく自然にできたのが、とても嬉しい経験だったんですね。
過去の私と今の私と未来の私は違うっていう、そういう残酷なシーンっていうか。それをすごくこう、美しく描きたかったんですよね。で、それがうまくいったような気がして。
うれしかったですねえ、書けたのは。
(bridge Vol.66 winter 2011)
と語っておられます。残酷さを美しく…。
いつか、フェリーニの映画について、グロテスクなことをちゃんと表現すると実はポップでみんなに届くものだ、と宮本さんが言っていたのを思い出しました。
「悪魔のささやき」の発売当初、RO69で、兵庫さんが全曲レビューをやってて、
http://ro69.jp/feat/elephantkashimashi201011#m06
「マジカルなほど美しい仕上がりの1曲」であると。ほんとにマジカルです。