この間「かく語りき」を見て、
宮本さんが話題に出していた森鴎外の『雁』を思い出し、
昨日から早速読み返しています。
これ、やっぱりいいです。
随分前に読んで、よかったなぁ、ということだけ覚えてて、
内容をまったく忘れてしまってました。いつものことなんですけど……
学生の岡田という男と、その友達の「僕」、
岡田と淡い恋に落ちるお玉という女が登場して、上野、本郷あたりを舞台に物語がつづられます。
鴎外先生の文章が、やっぱりとんでもなくすごいです。なんか文豪に向かって何を言うって感じですけど。
お玉はすごく美人なんだけど家が貧乏で、
最初嫁いだ人には実は妻子があったのが後でわかって自殺未遂をしたりして、
いろいろありながら高利貸しをしている末造のお妾さんになったんだけど、
「高利貸の妾」と町の人が悪い噂を立てている、というのを知ったときの悔しさについて、
自分が人に騙(だま)されて棄てられたと思った時、お玉は始て悔やしいと云った。それからたったこの間妾と云うものにならなくてはならぬ事になった時、又悔やしいを繰り返した。今はそれが只妾と云うだけでなくて、人の嫌う高利貸の妾でさえあったと知って、きのうきょう「時間」の歯で咬(か)まれて角(かど)がつぶれ、「あきらめ」の水で洗われて色の褪(さ)めた「悔やしさ」が、再びはっきりした輪廓(りんかく)、強い色彩をして、お玉の心の目に現われた。お玉が胸に鬱結(うっけつ)している物の本体は、強いて条理を立てて見れば先ずこんな物ででもあろうか。
森鴎外「雁」
と描写されています。『「時間」の歯』とか『「あきらめ」の水』とか、ほんとすごいっす。
で、まだ読んでる途中なんですけど、森鴎外ってすごいなー、と、
ほんとにいまさらながら考えていたとき、
ふっと脚気のことを思い出したのです。カッケ。
以前、疫学の話を少し聞いたことがあって、
そのときに、脚気をめぐる森鴎外の話題があったのです。
脚気は今でこそ栄養(ビタミン)不足が原因だとわかっているけど、昔は謎の病気で。
日露戦争のとき、兵隊さんのご飯を「白飯」にした陸軍には多くの脚気患者が出て、
「麦飯」にしていた海軍はそれに比べてかなり脚気になる人が少なかった。
で、陸軍の軍医として出征して、立場的にもエライ人だったのが森鴎外。
脚気については、鴎外は感染症説を支持していて「麦飯」対策をとろうとしなかったようです。
こんな感じで、陸軍医としての鴎外の責任はどうなんだ?という
脚気論争みたいなのがあるみたいなのですね。
まとめすぎちゃいましたが、ご興味のある方はこちらを。
脚気論争についてはいろいろ議論はあるようだけど、ちょっとダークサイドの森鴎外、というのを、
この脚気の話で初めて知りました。
彼は負けたんだろうか?
エレファントカシマシ “歴史”
このフレーズを思い出してしまう。
鴎外の脚気の話と結びつけるのは短絡なのかな……
森鴎外をちょっとかじっただけで、医者としての経歴も無知なので、
詳しい人からすると「何言うとんじゃ!」という感じかもしれないし、
いまさら気が付いて遅いよーという恥ずかしい話かもしれないです。はい。
でも、このエピソードを思い出して、
ちょっと“歴史”の聴こえ方が変わったような気もするのです。
≪負けたんだろうか?≫の意味はもっと広くて深いものなんでしょうけどね。
“歴史”の作詞風景は、映像のクライマックス、50分過ぎ頃出てきます。
鴎外について、彼は負けたのかどうか、について宮本さん語ってます。
この表情がとてもいい。
森鴎外は21歳のときから好きだったと。
詞にできることが心から嬉しそうな感じ。
ずっとずっと好きだった鴎外のことを歌った歌。
歌入れのときには、はにかむような笑みがこぼれて、
好き過ぎて詞にすることすら思いもよらなかったんじゃないかなあー
そう思わせるような、マイクの前の先生の笑顔でした。
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PAO、やっと届きました。
エステだのスポーツクラブのチラシが邪魔!と思いながら、
郵便受けの中から取ってまいりました。これから見まーす。