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エレカシという屋号

映画「永い言い訳」の公開が間近でとても楽しみにしています。
去年原作本を読んだときから、
映画化はまだかと待ちあぐね、
映画化の報があれば喜び、キャストの発表があれば興奮し、
そうやって1年以上たち、
いよいよ公開が来月14日まで近づいた。

わかってるんです。
ひとつの映画を過剰に楽しみにすると、ハードルを上げすぎてしまう(結果落胆する)ということを…でもこの期待をとめられない。どうしよう(どうもせんでも)

先日、銀座のApple Storeであった西川美和監督のトークショーに行ってきまして、
本の執筆から映画になるまでのお話、キャスティングの話、いろいろされていたのですが、
その中でチラシについて、熱く語ってらっしゃいました。
写真は大御所の上田義彦氏に依頼したこと、
準備していた撮影案を直前になって白紙にし、急きょ九十九里で撮影したこと。
とてもよい写真になった、まさしくアートであると、監督もとても満足そうにしていました。

話はエレカシにもどり、この夏の雑誌のインタビュー、
いろいろ読んだのですが、
新譜のジャケットについてうれしそうに話しているのが印象的でした。

作品の本編をパッケージするジャケットや映画チラシというものには、
作り手は、受け手が思う以上に、ただならぬ思いを抱くものなんだなあと。
作家のその思い、どうかこの作品が届くようにという祈りのようなものが、
一枚の写真にはぎっしり詰まっているんだろうなあ。
…と、西川さんの話やエレカシの記事を読んで思ったりしました。

あのジャケットの、髪わしゃわしゃの姿を見て、
あららーとびっくりして(この手のは初めてだったので)、
それからしばらくして、
「受け入れたのかな?」と思いました。
エレカシのパブリックイメージって、言ってしまえばこんな感じもあるようだし、
こういうのを前面に打ち出すのね、そうなのね、ほほぅ~!
という。

でも、インタビューを読んでみると
ご本人たちにとっては、思った以上に本当に思い入れがあったようで、

宮本浩次「これね、中身とジャケットが合致してるの。それがすごいなあと思って。こんなの、ファーストアルバム以来なんじゃないかってくらい」

ROCKIN’ ON JAPAN 2016年10月号

ファーストアルバム以来って相当だな、
と思いましたけど、
宮本先生、ほんとに今回のジャケットが愛おしくてたまらないようすで、
佐内さんとデザイナーさんと3人で写真をワイワイ選ぶのが本当にうれしかったとJAPANの記事にも書いてありました。

「でも凄くいい曲ができたから。それも自分だけじゃなく、ちゃんとエレファントカシマシの屋号でできたと思うから」

MUSICA 2016年8月号

このコメント、さらっと言ってますけど、
相当すごいことなんじゃなかろうか。

屋号。
アーティストにとって屋号って一体なんでしょうね。

掲げたての頃はピカピカだったそれも、
時が経ち、ボロボロになり、修繕を繰り返し、
時に重く時に誇らしく、時にもてはやされ時に飽きられ。

頭わしゃわしゃも言ってしまえば、屋号のひとつかもしれない。

忘れられないのは、2000年、ROCK IN JAPAN FES.で、
上下ジャージ姿で出てきた吉井和哉です。

イエモンはその翌年に活動休止、解散を経て、今年復活し、
吉井さんは見事ピカピカ、キラキラの衣装で復活のステージを繰り広げているようです。よかったよかった。

あの「ジャージ」は、本当のところはわからないけれども、
やはり「屋号」の重圧というものはあったのかもしれません。

その性質をわかりやすく名前にして、
幅広い人々に訴えかける屋号というものは、
つまりは記号化ということにもなりかねず、(ひいては売上げ、というお金問題にもつながるんだろうけど)、
この記号化は、表現者にとっては一番やっかいなものなのかもしれない。

「エピックの後半とかんなって、『どういう曲作ったらいいですかね?』『”ファイティングマン”みたいな曲』ってみんな言うんだけど、もうできないわけ、そんなものは」

ROCKIN’ ON JAPAN JAPAN 2009年 9月号

表現者としての欲。革新的な音。何にもとらわれず自分の宇宙を音にすることを作り手は追求したいのに、
それに反して、周囲は安定した売上げを要求し、
エレカシの「屋号」に期待する。

表現者にとっての「屋号」、「屋号」との折り合いといったほうがいいのか、それは永遠に悩ましいテーマなのかもしれません。

「改めて目覚めさせられましたよ。求められてんのは、こういうエネルギッシュな俺なんだよ」

音楽と人 2016年9月号

広告代理店の人たちや、
旧知の写真家とのやりとりの中で、
そして曲作りの工程を経て、
屋号を受け入れた。背負うべきものを背負った。
諦念というのでもないのだろう。
いや、一片の諦念はあるのかもしれない。
ファンの私が言うのも、失礼な話かもしれないけれども、
JAPANの記事では晩年の森鴎外に触れ、
「諦めとともに瑞々しさを取り戻して」と言っていて、
多少なりとも重ね合わせる部分があるのかもしれない。

そうやって屋号を受け入れ、
体の全部を使い切った声を自覚し、
満足のいく創作ができても、
それでも「もがいていたい」と宮本浩次は言う。

「もがいてる姿の根っこにあるのは、バンドでやりたいのに!っていう切なる願いだったりするからね」
「でもそれを無理して形にするのは、カッコいいと思えないんだよな。(中略)俺はもっともがいていたいんだよ」

音楽と人 2016年9月号

「もがいていたいんだよ」。ここにきて、ここまできて、もがいていたいという。

ドキュメンタリー映画「25 years of the fighting men’s chronicle」の、
「昨日よ」のリハの最中にスタジオの別室で、
「もうちょっとバンドが上手ければよかった」
と宮本さんがこぼすシーンがあります。
悲しげな悔しげな複雑な表情をしています。
泣いてるようにも見えます。
「もがく」といえば、なぜかこのシーンが思い浮かびます。

山下監督と話しながらも、頭の中はきっと、曲をどうするか、
ということしか考えていない感じ…心ここにあらずというか。
そうして「石くんがギター弾けばいいんだ」と思いつきスタジオに足早に戻っていく…

もがきたい、と「音楽と人」で言っていたのは、
やはり、「バンド」という部分なんでしようか。
逆に言うと、「バンド」というものに、
それだけのロマンを持っている、ということか。
バンドが生み出す奇跡というものを、ずっと信じているということか。

ずっと悩み続けて…………うん、それをずっと見せてほしいですね

と横山健さんも、ドキュメンタリー映画「25 years of the fighting men’s chronicle」で言っていました。
そうなんです。見てたいんです。

もがく姿を見ていたい、というのはどういうことなんだろうな。
やっぱり、自分のことにかえってきちゃうからなんだろうな。
そのもがく姿から、お前はどうだと、発破をかけてほしいからなんだろうな。

そもそも1stアルバムができた時に、納得がいかず「60点」と評した人である。
「80くらいまでもがくよ!」とのたまう男、宮本浩次50歳。
なんて頼もしい。
これからもとくと見守らせていただきます。

—–
日比谷野音が近づいて参りました!
楽しみです。

—–
カープ優勝!(泣)

25thドキュメンタリー反芻してます映画上映も終わって、ひとつお祭りが終わったような気のする今日この頃。 「めんどくせえ(仮)」聴いて盛り上がったり、野音チケットのことで...

POSTED COMMENT

  1. 侘助 より:

    鍵コメさま。こんにちは!
    トークショーとってもよかったです。
    キャスティング、すばらしいですねえ。まさに当て書きのような。
    主演の本木雅弘は、師匠の是枝監督におすすめされたそうです。(是枝監督と言えば、「扉のむこう」ですね〜♪ と強引にエレカシに結び付け) 本の主人公まんまの人だよ、と。
    その後実際会った時に、「監督、本当は(この役は)ワタシじゃないと思ってますよね?」と本木さんに延々と言われたそうです(笑)
    諦め…のくだりは、ほんとにぐっときてしまいますねぇ。切ない、とも言っていたけれど…
    でも、諦めという言葉、100%負のイメージじゃないんですよね。鴎外の人生をあんなふうにみてるところがいいですよね。
    健さん、あのコメントの時、いい顔してましたねー ほんとにいいコメントで、コメントコーナーのトリって感じだったですねぇ
    リハのシーンの表情もほんとに…なんとも言えない顔で。
    山下監督が容赦なくクローズアップしてるので、
    細かい表情、眼のうるみまでよくわかる…
    この2つのシーンが対になってる感じはしますねぇ、今思うと。
    もがく姿も含め、これからどうなっていくのか、どんな曲ができて、どんなライブが繰り広げられるのか、
    ずっと見てたいですね!
    野音がもうすぐそこまで近づいてきました〜〜! そわそわ!
    お天気になりますように!
    (中岡、ツボでした。たしかに!笑)

  2. ミキ より:

    DVDのカメラワークや、作品のアートワーク等で、宮本以外の3人もフィーチャーするよう、オフィシャルにメールを送りませんか。

  3. 侘助 より:

    ミキさん
    少し偏りがあるかもしれませんね。バランスよくいろいろうつしてくれたらいいですね。

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