エレカシ・宮本ソロ_曲タイトル

あなたへ(エレカシ復活後第一弾シングル)

「あなたへ」。
はかないイントロのギター。か細い不安げな音。
はかなく始まるけど、少しずつ音は厚みを増し、盛り上がり物語をつむいで、
また最初の揺らいだギターのフレーズに戻る。



すとん、と静かになるところがいい。ぎゅっとなります。

特にギターまわりが繊細なアレンジで好きです。
イントロの単音リフのふるえるような音は、
歌詞以上に感情をあらわにして一気に曲の世界に引き込まれてしまうし、
アコGの透明感のあるストロークは歌にやさしく寄り添います。
曲が盛り上がるにつれ鋭く入る泣きのギターや、
二音を繰り返し鐘の音のように響くアルペジオ。
ギターのさまざまな音色が曲に奥行を持たせているように思います。

もしも今よりもっと賢かったらなんて
人生は今よりもっと輝き愛されていたでしょうか?

エレファントカシマシ「あなたへ」

もしも。たられば。○○だったら。
後悔のない人生を送れてきただろうか。
私のような人間でも、この曲を聴くと、
人生って……と、ちょっと大げさな言葉なぞ使って、わが身を振り返ってみたりしてしまいます。
例えば地下鉄のホームで、交差点の信号待ちで、
生活の隙間の、ほんの一瞬ににかけめぐるさまざまな記憶のかけら、後悔の渦。
人は、驚くほど短い間に、言葉にならない絶望を抱いてしまうものだと思います。
もう、自分でも意識しないぐらい一瞬のうちに。
自分の残酷さ、逃避、言い訳、強がり。ふとした瞬間に普段フタをしている壺がぱっくり開いて、いやでも見えてくる恐ろしい闇。

……ちょっと重たすぎました(笑)。曲に刺激されてしまいました。
まあでも、一瞬なのです。何日かに一度、何週間かに一度、その頻度は時期によって違うけど、
そんな魔のひとときというのは、日々の生活の中で必ず訪れる。
一瞬で自信を失い、一瞬で不安のどん底に突き落とされる。
どうしようもない過去を振り返り、未来が曇って見え、ためらう。

曲を聴いて感覚的にひりひりと迫ってきたのは、まずこんな心象風景でした。
茫然と立ち止まる姿。
宮本さんが病気の後ほどなくして着想したという曲だという前知識があるせいかもしれません。

でも、この曲では≪彩る花束になる≫と歌われます。

わたしが迷い傷つき
そして努力して来たこの日々が
いつしかあなたを彩る花束になるのです

(同上)

本当でしょうか。その言葉を信じてもいいんだろうか。
思わず問うてしまうほど、まぶしいぐらいにまっすぐな言葉。
でも、抑制のきいた淡々とした歌声はむしろ説得力をもって、
すんなりと心のひだに沁み込んできます。
全然努力も足りないし、ずるいところもたくさんだけど、
でも、この詞を胸の内の掛け軸に垂らして、もう少し素直に、もう少しがんばってみるか……と、
言葉にすると青臭くて小恥ずかしいけど、
そうやって不安にまみれた魔のひとときから、やがて目が覚める。

音楽を聴くことというのは、“つっかい棒”探しなんじゃないかと思う事があります。
突然訪れる不安をかき消すために、
音楽の中に、詞の中に、
生きる支えになる“つっかい棒”を探しているという気がするのです。
生きる支えなんてちょっと大げさか。

もしもあなたが今より
嘘つきでなかったら
私はこの開けてる大地の限り
遠く遠く去ってしまうでしょう

(同上)

裏声は切なくぬくもりを帯びてうつくしい。
はじめて聴いた時からこのメロディ、フレーズが心に残ったけど、
繰り返し聴いて、さらにぐっときています。
理屈で考えると、意味は全然わかりきれてないのかもしれない。
でも音の中で流れで聴いていると、ゆっくりじっくり何かが押し寄せてきます。
厳しくも凛としてあたたかい何か。

痛いほど響いてくる≪ぜんぶ≫という言葉の繰り返し。
ぜんぶ。ひらがななんですね。

立派なことも恥ずかしいことも、やさしくてもやさしくなくても、
嘘をついても虚勢を張っても、
遠くから近くから見守ってくれているという感じがします。
見守る、というのも言葉が違うかもしれない。
もっと乾いてて、静かな、控え目で、落ち着いたまなざし。

不敵な笑みを浮かべて世間をあざ笑うエレカシも
「立ち向かえ」とメッセージを剛速球で投げてくるエレカシも大好きだけど、
この「あなたへ」は、今までのエレカシになかったようなたたずまいで清新な感じがします。
はかなさも力強さも内包して、そっとつつましく置かれたような存在感がとてもいい。

1年経ち10年経ち、この曲を不意に聴いたら、
きっと、2013年の復活のステージに思いをはせ、
待ち焦がれてCDを買った11月の今頃を思い出すのだろうと思います。
自分の内面、心の深い底を照らし出して、
これから先も折に触れ、いろんな局面でいろいろに響き感じられる、
奥深いやさしい曲なのだろうという気がします。

親(宮本さんのお母様とアルバム「扉」の話)宮本さんのお母さんの話は、宮本さんの口からときどき出てくることがあって。 エレカシのライブは爆音がうるさいので耳栓をして見ているとジョ...

POSTED COMMENT

  1. みみこ より:

    わびすけさま はじめまして! ブログほんとに共感してしまうことが沢山で、はまって今までのさかのぼり読ませていただいてます! 私も96年頃悲しみのはてで どーんとエレカシと宮本さんの魅力にはまりました。 途中、冷めてはなれたりまた子育ておちついて 最近ふいにテレビで見て元気そうだなーと思い ふいに あなたへや約束を聞いてどすーんとまたはまりにはまってます笑 わびすけさんの曲への感想や宮本さんへの観察力とか すべて大好きです!またこれからも たのしみにしています? 

    • 侘助 より:

      みみこさま
      はじめまして! コメントありがとうございます。
      たくさん読んでくださり、うれしいです。
      96年悲しみの果てでどーん!は私も同じくです。ご同輩♪
      「あなたへ」「約束」いいですねえ。胸がキュンとなります。
      いろいろ共感してもらえてすごくうれしいです。
      私もフィーバーしたり冷めたりで・・・でもいつでも戻ってこれるのは
      エレカシのみなさんが長い間活躍し続けてくれているから^^たのもしい☆
      ぼちぼち書いておりますので、今後ともよろしくお願いします♪

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